House【暖房は1台のエアコンで十分!?】

 

エアコンというのは全館空調のような大きな設備ではなく、家電量販店で購入できるような壁付もしくは天井付の普通の家庭用エアコンのことです。

 

最近では床下エアコンなどをチョイスするメーカーが増えていますが、個人的にはいくつかのデメリットを感じています。

床下エアコンにする場合は、基礎断熱を施し床下空間を温める必要があります。

ということは住宅内部の体積が増えることになり、人が生活しない無駄な空間のためにエネルギーを消費することを意味します。

 

また、基礎のスラブ(下面)に断熱を施したとしてもせいぜい50mm〜100mm程度で、かつコンクリートそのものが熱容量の大きい素材なので、エアコンのエネルギーは地面に逃げる分とコンクリートに奪われる分で約30%ほど捨てることになるとも言われています。

 

つまりエアコン1台で100%の力を発揮できるのに、30%以上も買った電気を捨てるということになるんです。

 

床下エアコンのデメリットのひとつに、シロアリ被害の可能性が考えられます。

先ほども言った通り床下エアコンは人の生活部分でない基礎部分も温める必要があります。

基礎を温めるということは冬のシロアリの恰好のターゲットになり得るのです。

 

通常基礎断熱は、外気を床下に入れないようにしてコンクリートを断熱材で被覆しますが、コンクリートからは数年間水蒸気が発生し続けます。

逃げ場のない水蒸気は断熱材との間に結露として現れ、さらにシロアリにとって好条件な環境になってしまうのです・・

 

一番厄介なのは被覆断熱材のせいでコンクリートとの間で起きている問題を目視で確認ができない為、被害を未然に防ぐことも難しくなります。

 

これらの理由から

▫︎温めなければいけない空間は極力小さく(無駄に増やさない)

▫︎エネルギーを無駄遣いしない

そしてシロアリの脅威から家を守るため、
普通にお部屋に設置するルームエアコンがベストだと考えています。

 

air conditioner

 

 

では、なぜ床下エアコンが選ばれ続けるのか?という疑問が浮かびますよね。

 

 

先ほどエアコン1台で十分家は温まるとお話しました。

 

計算上のお話をすれば、例として当社のような高性能住宅で『Q値 1w/㎡kの100㎡の住宅』があったとします。

Q値:家全体から逃げる熱量を床面積で割ったもの。逃げる熱量には換気も含まれます。

ここでは1階LDK・2階寝室のような住宅をイメージするとわかりやすいかと思います。

 

この住宅では、外気温がマイナス3度まで冷え込んだ真冬に室温20度をキープしようとすると最大暖房能力は1,835wを必要とします。

三菱の低グレードエアコン6畳用ですら最大暖房能力が1,980wあるので、十分に温めることができることができます。

 

一般の家電メーカーなどで目安として使いがちな基準となっていますが、世の中の”○畳用エアコン”という表記はすべていい加減なのであてにしないでください。

 

家の性能が違うのに面積で能力を決めるのはナンセンスです。

しかしながらこれは Q値 1w/㎡k(G2グレード並)ぐらいの性能を誇るお家でしか通用しません。

 

普通の住宅は常に外気の影響を強く受け続けているため、外が寒ければ壁を伝わって家の中も寒くなります。

その状況で戸を締め切った部屋と解放された部屋ではどうしてもそこに温度差が発生してしまいます。

それを解消するのが床下エアコンだと私は考えています。

 

暖かい家を作るのは簡単です。
お金をかけて暖房の力に頼れば誰でも作ることができます。

上記のようなデメリットを抱えたとしてもそれぞれの部屋の温度が均一になるようエアコンの風を送る簡易的な全館空調は安易な計画だともいえます。

 

床下エアコンは良いところだけ見ると魅力的に感じますが、実際には様々なデメリットがありおすすめできるものではありません。

とはいえ、BlackPepperの住宅でも少なからず外気の影響は受け続けています。

しかしそれらは換気の計画を入念に行うことでほとんど解消できます。

 

フロアプラン floor plan

 

 

高気密高断熱の住宅にとって24時間換気は必須です。

 

建築基準法では2時間に1回部屋の空気が新しい空気に入れ替わるよう設計をします。

これを利用し、暖かくない部屋で排気をすることで暖かい部屋から効率的に空気をひっぱってくることができます。

さらには排気の空気は熱を持っているので、そのまま捨ててしまってはお金をかけて温めた熱を捨てることになります。

そうならないためにその熱は全熱交換機という機械に通して回収し、部屋に戻します。

 

 

そして忘れてはいけないのが、冬場のことばかりではなく夏場の冷房のことも考えなくてはいけません。

 

最大暖房負荷に比べて最大冷房負荷の方が大きくなるので、実際にはエアコンは夏場のことを考えて最低でも2台は設置しています。

どうしても外気がマイナスになるような冷え込み時に温度コントロールが難しい場合にはそのもう一台を少し稼働させて補っています。

このようにリスクを抱えなくても住宅の断熱性さえ高ければ、快適な住空間は住まい手のライフスタイルに合わせて作ることができるのです。

 

イニシャルコストに予算を割くのは悩ましい問題かと思いますが、断熱にかけた分の恩恵は十分に受けられるはずです。

この記事を書いた人

竹内恵一
竹内恵一空間デザイナー
1987年生まれ|2級建築士・東京にてショップデザイン専攻
地元長野に戻ってからはグラフィックを扱う企業へ就職するも、空間デザインの世界が諦めきれず、数年後には起業を果たしBlackPepper LLPを設立。軽井沢の別荘建築で現場の経験も積みながら、デザイナーとしての道へと本格的に歩みを進める。2017年6月には株式会社BlackPepperを設立。同社取締役デザイナーとして、主に住宅・店舗設計を手がけている。

一見、住宅と店舗ではかけ離れているような分野だと思えるが、考え方や求められていることが違う分、別視点からの柔軟な発想を両デザインに落とし込むことができている。今もなお両立しているこのスタイルは妥協のない空間づくりへの姿勢の表れであり、今後も理想を描き続けるための核とも言えるだろう。